スライド1 過重労働による健康障害と過労死
本日は過重労働による健康障害と過労死というテーマでお話しします。
さて人類の誕生から現在までを、チャールズ・ダーヴィンの進化論的に振り返ってみますと、霊長類から枝分かれして約400万年前に旧人が出現し、人類が狩猟生活から農耕生活に移ったのは約1万年前と
されています。それに比べて、労働衛生に関わる産業が勃興したのは、僅か200年前に過ぎません。他の生物は遺伝子の変化によって環境に適応してきましたが、人類の繁栄は人間のそのすぐれた大脳機能に
よって環境に摘要するようになりました。キャノンという生理学者は
『ストレスに対しての生体の臨戦態勢は、闘争逃亡反応といい、 闘争逃亡反応といい、動物の生存に不可欠であり、長い進化の歴史の中で作り上げられた生体の本質的機能である。』と言っています。
しかし、最近の産業構造の変化は、人間の進化や適応の範囲を超えており、動物から引き継がれてきたストレスに対する闘争逃亡反応は逆に現代人には疾病をもたらしているとも言われています。それが疲労→過労→過労死というメカニズムを作っているのかもしれません。
スライド2 リーフレット1@ 過重労働による健康障害を防ぐために
近年の医学研究を踏まえ、平成13年12月12日付通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」により、脳・心疾患の労災認定基準が改正されました。
その結果これまで発症1週間以内を中心に、加わった負荷を重視していたところが、長時間にわたる疲労の蓄積についても業務による明らかな過重負荷として考慮する事になったのです。
この新認定基準の考え方の基礎となった医学検討結果によれば、長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧上昇などを生じさせ、その結果、血管病変等をその自然経過を越えて著しく増悪させるというのです。
スライド3 リーフレット2A 時間外労働健康障害リスク
前に述べたその観点から、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間の評価の目安が次に掲げられたものです。
発症前1カ月間ないし6カ月にわたって1カ月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性は弱いと判断されますが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると判断されます。そして時間外労働が月100時間または2〜6カ月平均で月80時間を越えると業務と発症との関連性が強いと判断されるのです。
スライド追加 労働時間、睡眠時間と残業時間および脳、心臓疾患増加のめやす
さてそこでなぜ45時間、80時間、100時間なのでしょうか。スライドはそれらをの関係を示したものです。スライドは総務庁社会生活基本調査とNHKの国民生活時間調査によるものです。日本の労働者の平均的な時間の活用を示めします。それによれば、睡眠時間7.4時間、以下食事などに5,3時間、仕事(拘束時間の昼休み1時間も含めて)9時間,余暇に2,3時間で、併せて24時間になります。そして週5日働き、睡眠時間に注目すると、10時間の残りのうち、8時間睡眠すると残り2時間が残業、この場合
月45時間に相当し、この場合心・脳血管死の相関は認めません。ところが、睡眠5時間、5時間残業の場合、おおよそ月100時間の残業に相当し、途端に、心血管疾患の発症が大いに関与していると言われています。このことから45,80,100時間の数字が挙がってきました。
スライド4 リーフレット7F 時間外労働を削減しましょう
これらのことから時間外労働をいかに削減するかということが「過重労働による健康障害を予防する」1番の方策となります。皆様は経営者もしくは衛生管理者が今日お集まりです。当然36協定(さぶろくきょうてい)についても承知のこと思いますが、念のためこの36協定についてご説明します。
36協定とは、法定労働時間を超える時間外労働や法定休日に労働させる場合に、労働者と使用者との間で締結される労使協定のことを言います。この時間外労働に関することが、労働基準法第36条にもとずいているので一般的に「さんじゅうろく」と言わず「さぶろく協定」と言うようになりました。
過重労働であるか否かを判断する最も重要な要素として「労働時間の長さ」を尺度に考えていることは先ほどお話ししました。
いったい普通の労働時間は、どれくらいと思いますか。実はこれは法律により決まっています。労働基準法第32条・第40条では労働時間は、1週間40時間(特例対象事業については44時間)1日では8時間が法定労働時間とされこれを越えて働いては行けないのが原則です。
残業つまり時間外労働は、業務が多忙で法定労働時間を超えて労働させなければならない場合に、使用者と労働者の代表との間で労使協定を結ぶわけですが、これが先ほどもお話しした「36協定」です。「36協定」を結び、所轄の労働基準監督署に届けて、はじめて法定労働時間を越えて労働させること、つまり、残業、時間外労働をさせることが出来るのです。しかしたとえ月45時間を超えて時間外労働を行わせることが可能な場合でも、健康障害防止の観点から実際の時間外労働は月45時間以下とするように努めることが望まれます。
スライド5 リーフレット8G 労働時間を適正に把握していますか?
そして時間外労働をさせた場合、使用者は労働者の労働日ごとの始業・終業を確認し、記録する必要があります。時間
を適正に把握していますか。また年次有給も取得しやすい職場環境づくりに努めましょう。
スライド6 リーフレット3 B 健康診断と事後措置を確実に実施しましょう
つぎに健康診断です。1年以内に1回の定期健康診断を実施しなければならないは勿論ですが、深夜業などのある業務に常時従事する労働者には、6カ月以内に1回の特定業務従事者健康診断を受けなければなりません。実施検査項目は一般健康診断と同じです。これには自発的健康診断受診支援事業助成金制度があり、費用の4分の3が国から支給されます。
スライド7 リーフレット4C 定期診断の結果に基づく適切な事後措置を実施していますか?
そして健康診断の結果に基づき事業者は事後処置を講じなければなりません。これを怠った事が場合により健康配慮義務を怠ったとして、事業責任を問われることもあります
有所見者については、健康保持のために必要な措置について医師の意見を聴き、必要な事後措置を講じなければなりません。わからないことは、気軽に産業医、地域産業保健センター、健康診断実施機関などに相談してください。また保健所などの地域保健の機関も活用できます。
スライド8 リーフレット5D 産業医による保健指導や助言指導を受けましょう11
さて、ここでは産業医の役割についてお話しします。健康診断の事後処置に関する産業医の大切な業務は、医療区分と就業区分の判定です。今回の結果のみならず、過去の健康診断結果の推移、既往歴、生活状況などを統合的に考慮して、再検査・精密検査・治療・経過観察・放置可と言った「医療区分」の判定をも産業医は知っていなければなりません。それらを元に、「就業区分」を判定します。個々の従業員に対し、従来どおりか、作業量を減らすか、時間を短くさせるか、作業場を変えるか、作業内容を変えるかなどの判断をします。
産業医が行う保健指導は、安衛法第66条の7に事業者の努力義務として規定されています。指導には従業員が検査結果を理解するための指導、健康の保持増進のために必要な生活習慣等の改善指導、さらには就業上の配慮指導まで及ぶこともあります。従って、産業医は保健指導を行う前に、職場を十分把握し、職場とコミニュケーションを深める姿勢をとり、さらに事業者および衛生管理者に対し、保健指導の目的と意義を説明し、十分の理解を得ておく必要があると言えます。
時間外労働が月100時間または2〜6カ月平均で80時間を超えたら、事業者は産業医による事業場での健康管理についての助言指導を受けます。そして産業医が必要と認める場合は、必要な労働者に対する臨時の健康診断の実施とその結果に基づく事後措置の実施を行います。
一方労働者は産業医の面接による保健指導を受け、産業医が必要と認める場合は、事業者が実施する臨時の健康診断を受診します。
スライド9 リーフレット6E 時間外労働が45時間を超えたら
また時間外労働が月45時間を超えたとき、この場合はローリスクな健康障害が心配されるときですが、事業者は産業医による事業場での健康管理についての助言指導を受けます。この場合一度産業医から助言指導を受けた際に、当該労働者の年齢、過去の健康診断の結果、就業状況などを踏まえた産業医の意見を基に、以後の就労実態、健康管理の状況等が改善された場合であって、新たな変化(健康診断の実施)がないときには、必ずしも月45時間を超える時間外労働毎に産業医の助言指導を受ける必要はありません。
そしてもし過重労働による業務上の疾病を発生させた場合には、事業者は、産業医の助言を受け、または必要に応じて労働衛生コンサルタントの活用を図りながら、原因の究明および再発防止の徹底を図ることが必要です。
スライド10 疲労の発生要因
「過労死」を防ぐには、その原因となる疲労を少なくし、そして蓄積させないことが大切です。では、疲労の対策を考えましょう。疲労の原因は、スライドのごとく作業要因、個人要因、労働環境要因と大きく分けられます。時間外労働は表の左上にある作業の時間的要因に当たります。しかし、勤務外生活要因、個人条件、心理的要因が過重労働における過労死に及ぼす影響の大きさも十分推測されます。
スライド11 急性疲労
スライドは急性疲労の出現の仕方を示しています。以前はこのような作業要因による肉体的な急性疲労が主でした。
スライド12 亜急性疲労
しかし最近では静的筋緊張を強いる身体作業が多い上に、回復しにくく、精神的疲労をも生じやすくなっています。
スライド13 慢性疲労
その結果1日の疲労がその日の休養・睡眠によって回復しきれずに蓄積し、慢性疲労に移行していきます。回復、そのためには、休養を取ることが1番効果があることと考えられます。
スライド14 自己診断A
過労死を防ぐための自己診断のための基準があります。
Aは仕事上の危険信号を示しています.@からFまでに幾つか当てはまりますか。3つ以上自分に当てはまりますか。
スライド15 自己診断B
Bは生活上の危険信号です。同じく@からFまであります。3つ以上ありますか。
スライド16 自己診断C
Cは身体上の危険信号です。この中にも3つ以上あなたに当てはまるものがありますか.さてA,B,Cそれぞれ3つ以上合計9以上ある方はすでに危険です。またB.Cに3以上該当するものが無くても、Aで3以上該当してる方は、いずれB,Cに波及する恐れがあり要注意と言えます。
スライド17 労災補償のグラフ
脳血管疾患及び虚血性心疾患の過労死と労災補償状況を示すグラフです。請求件数が鰻登りで増え、認定件数も4年間で2倍という勢いです。これらの過労死は、業種別には製造業、建築業、運輸業に多く、職種別には管理職、専門技術職、自動車運転手に多い傾向があります。また年齢も30歳から50歳と働き盛りに多いのです。
まとめ
日本人はまだまだ働きすぎが指摘されています.そのため、余暇の活用がいま叫ばれています。英語のホリディーには「その人がその人本来になるための日」「心身健康になるための日」という意味があります。今年4月から名称を国立保健医療科学院に変えた国立公衆衛生院では「過労死」を防ぐために、体のリズムを取り戻そうという短期保養セミナーを行っていました。これは1週間のメニューをリゾート地で行い、温泉に入り、森林浴をし、運動をして、土曜、日曜はゆっくり家族と過ごすという方法です。その結果セミナー参加後は、血圧の高い人は低下し、低い人は安定し、バランスの取れた状態になり、コレステロールにつても同じような結果がみられました。その後、また元の「はたらき蜂」戻ったらしょうがないと思われるかもしれませんが、今度はその経験を生かして疲労回復の早さが早くなるのです。
休養、保養という意味は、旅行やレジャーの計画をしっかり組んでいそしむと言うことではありません。簡単に言えば、「子供の頃の暮らしに戻る」こと。つまり子どもの日常生活は頭で考えず、体が先に行動しているということです。本来の生体リズムはよく体を動かし、疲れれば寝てしまう、そんなのんびりした時空で心身ともリフレッシュしてしまうことです。そんな時間を持ちませんか。そして過重労働による健康障害、過労死をあなたの職場から無くしましょう。